モヤモヤ病(ウイリス動脈輪閉塞症)

今まで元気だった子供さんに突然、「半身の手や足の力が抜ける」、「ロレツが回らなくなる」、「視野が欠けて見える」といった症状が何度も起こる。あるいは、熱いラーメンやウドンをフーフーと吹いて食べた時、笛やハーモニカを吹いたり、あるいは、強く泣いたり(いわゆる過呼吸)した後に急に足が立たなくなって歩けなくなる、箸を急に落としたりする。これがモヤモヤ病の際によくみられる症状です。

脳には心臓から出て枝分かれした動脈のうち、4本の動脈が入ってゆきます。すなわち首の部分の前方で左右にある内頸動脈(ないけいどうみゃく)、後ろの方にあって、やはり左右にある2本の椎骨動脈(ついこつどうみゃく)、以上の4本が首から頭の中に入ってゆくという構造になっています。そして、後ろにある2本の椎骨動脈は頭の中に入ってから、合わさって脳底動脈という1本の動脈になります。一方、内頚動脈は頭の中に入り、しばらく走ってからそれぞれ枝分かれして、前大脳動脈と中大脳動脈という2本の動脈になりますし、脳底動脈の方は2本の後大脳動脈という動脈に枝分かれします。この前方にある内頸動脈系の動脈と、後方にある脳底動脈系の動脈は脳の底の部分で互いに繋がって輪のようになっていますが、これをウイリス動脈輪といいます。この動脈の輪は、例えば、ひとつの動脈が詰まって、その先の脳の血液が足りなくなった場合、他の動脈を通じて必要な血液が流れるための安全装置、すなわちバイパスとして働いているのです。

モヤモヤ病とは、このウイリス動脈輪を形成する脳底部の動脈の壁が線維性の物質で肥厚して、次第に狭くなって(狭窄)、詰まってゆく(閉塞)原因不明の病気です。具体的には、両側の内頚動脈が頭の中に入り、最初に血管を分岐する直前(内頸動脈分岐部)で、それぞれ次第に狭くなり、閉塞してゆきます。そして同じ変化がその先の中大脳動脈や前大脳動脈にも広がってきます。狭くなった先の脳に血液が流れにくくなってきますと、脳の血液不足をなんとかして補おうと、その回りの小血管(穿通枝)に血液が流れて、いくつもの側副(そくふく)血行路(バイパス)が形成され、血液が不足した脳への血流を維持しようとします。その結果、普段は細くて検査に写らないような細い血管が拡ってきて、これらの拡がった細い血管が検査上、「もやもや」と見えるため、モヤモヤ病と名づけられたのです。

 

モヤモヤ病にかかった方の脳は慢性的に血液が足りない状態になっていて、細いもやもや血管を通じてなんとか血液が補われている状態です。そのため熱いものを吹いて食べたり、笛を吹いたりして過呼吸の状態になりますと、血液中の炭酸ガスが体の外へ出過ぎて、そのせいで脳の動脈は収縮します。そのような場合、もやもや病の方では、脳への血液が足りなくなってしまうことが多く、たちまち脳虚血発作が起こることになります。

 

モヤモヤ病では、幼少児の場合は脳への血液が不足したための症状、すなわち一過性の脳虚血発作を起こす脳虚血型が大半を占め、血液不足がひどくなると脳梗塞になってしまうこともあります。それ以外に、多くはありませんが、けいれん発作が主症状のてんかん型などもあります。

 

一方、成人の方の場合、多いのが頭の中に出血してくる出血型です。モヤモヤ血管は元々、細い血管なのですが、側副血行路となったせいで、多量の血液が流れるようになっています。そのせいで時間の経過とともに血管が拡がって、その壁がもろく破れやすくなってきます。そして、それがついに破れて出血しますと、くも膜下出血、脳内出血や脳室内出血などの頭蓋内出血を起こすことになります。もちろん成人の場合でも、脳虚血発作やけいれん発作を起こす場合もあります。なお出血が起こった際の症状は一般に重篤で、半身の麻痺が起こったり、ひどい時は命に関わることもあります。

モヤモヤ病は、アジア系民族に多いと言われ、中でも日本に最も多く、平成17年の全国調査では約3900人となっています。発病年齢は10歳未満(小児モヤモヤ病、5歳を中心)と3040歳(成人モヤモヤ病)に二つのピークがあります。男女の比率は1 : 1.8と女性に多く、約10%の患者さんに家族内での発生がみられます。

脳虚血型やてんかん型モヤモヤ病に対しては、脳血流改善剤や抗てんかん剤が投与されます。一方、脳虚血型に対する脳血管バイパス手術には一定の効果があり、広く行われています。これは脳の外の動脈を、頭の中の動脈に直接吻合する手術と、血管を付けた頭の外にある側頭筋と言う筋肉の一部を直接、脳の表面に置いてくる手術とがあります。

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